「お前、普段の飯ってどうしてるんだ?」
何気ない口調で尋ねると、少女の表情がわずかに曇った。箸を持つ手が止まり、視線が皿の上に落ちる。
「ん……? えっとぉ……今の家、居づらくて……逃げてきた。夜は、食べてない……」
「そっか~」
ユウヤは、それ以上詮索することなく、静かに頷いた。少女の言葉に、どこか胸が締めつけられる。
「……家に戻れとか、言わないの?」
少女がぽつりと尋ねた。ユウヤの反応が意外だったのか、少し訝しげな目を向けてくる。
「居づらいなら、仕方ないだろ~? 無理して戻っても、ツラいだけだろ?」
いきなり家族を失って、知らない家に放り込まれたら、誰だって戸惑うだろう。ユウヤは、少女の気持ちを思いやった。
「お前って、料理はできるのか?」
話題を変えるように尋ねると、少女は小さく首を振った。俯いた耳が、しょんぼりと垂れている。
「うぅ……できない……」
「掃除は?」
「むぅ……やったことない……」
「洗濯は?」
「はぅぅ……できない……ごめんなさいぃ……」
少女は、できることが何もないことに気づき、申し訳なさそうに肩をすぼめた。その声は、今にも消えてしまいそうにか細い。
ユウヤは、そんな彼女の姿を見て、ふっと笑った。
「じゃあ、これから覚えればいいじゃん。ゆっくりでいいからさ」
少女の目が、ぱちりと瞬いた。驚きと、ほんの少しの安堵が、その瞳に浮かんでいた。
「は? あ、別にできなくてもいいんだけどさ。なんで謝るんだ?」
ユウヤは、少女の反応に首をかしげた。責めるつもりなんてまったくなかった。ただ、純粋な疑問だった。
「え? だって……料理、食べたし。働かないと……でしょ?」
少女は戸惑いながらも、どこか怯えるように答えた。まるで、自分の存在が迷惑だと信じ込んでいるかのように。
(あ~、そうなんだ。今までも、そうやって“食べさせてもらってる”って思ってたんだな……)
ユウヤは、心の中で小さく息をついた。実のところ、自分も最初は似たようなことを考えていた。料理や洗濯をしてもらって、その代わりに食事と寝床を提供する――そんな“理由”をつければ、少女もここに居やすくなるんじゃないかと。
でも、今の彼女の反応を見て、それが逆にプレッシャーになることもあるんだと気づいた。
(何もできなくても、本人がここにいたいと思うなら、それでいい。少しずつ、できることを増やしていけばいいんだ。そうすれば、きっと自分のためにもなる)
ユウヤは、少女の考えに共感しつつ、自分の思いを言葉にした。
「まあ……ゆっくり覚えればいいし。ここに、一緒に住むか?」
その一言に、少女は目を見開いた。まるで、信じられないものを見たかのように。
「え? いいの……!?」
「いいんじゃないか? もともと俺の家だったんだし」
ユウヤが肩をすくめて笑うと、少女の瞳に涙が浮かんだ。堰を切ったように、ぽろぽろと大粒の涙が頬を伝う。
「……うん。ありがと……! 料理とか、覚えるっ。色々と手伝うっ!」
少女は、震える声で、けれど精一杯の感謝を伝えた。その姿は、どこか晴れやかで、ほんの少しだけ強くなったように見えた。
(まずは……臭いをどうにかしたいな。ネコだから水が苦手とか、そういうのか? でも、他の子はちゃんと綺麗にしてたし、そんなに匂わなかったけど……)
ユウヤは、少女の体からほのかに漂う独特の匂いに気づき、内心で首をひねった。決して嫌悪ではない。ただ、彼女がこれから人と関わっていくうえで、少しでも快適に過ごせるようにしてやりたかった。
「ちょっと魔法をかけるけど、いいか?」
ユウヤが穏やかな声で尋ねると、少女はびくりと肩を震わせた。大きな瞳が潤み、怯えたようにユウヤを見つめる。その小さな体が、ほんの少し後ずさった。
「え……? な、何するの……? 痛いのは、いやぁ……!」
その声には、過去の恐怖が滲んでいた。ユウヤはすぐに両手を見せて、ゆっくりと首を振った。
「大丈夫。ただ体を綺麗にするだけの魔法だから痛くないし、怖くもない。すぐ終わるからな」
できるだけ優しく、安心させるように言葉を選ぶ。少女はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「……うん。わかったぁ……いいよ」
その声はかすかに震えていたけれど、そこにはユウヤを信じようとする意志があった。
少女は、恐る恐る頷いた。ユウヤはそっと手を翳し、銀髪のネコ耳少女に向けて魔力を流す。
「いくぞ。ちょっとくすぐったいかもな」
そう言って、洗浄魔法を発動させると、少女の体をふわりと温かな湯の膜が包み込んだ。魔法の水は肌に触れることなく、空気のように柔らかく、しかし確実に汚れを分解していく。髪の毛の奥まで浸透し、埃や汗、こびりついた匂いまでも丁寧に洗い流していった。
続けて風魔法が発動し、優しい風が少女の体を撫でるように乾かしていく。まるで春の陽だまりの中にいるような心地よさだった。仕上げに、仄かに甘い香りがふわりと漂い、空気が一気に清らかになる。
「お前、普段の飯ってどうしてるんだ?」 何気ない口調で尋ねると、少女の表情がわずかに曇った。箸を持つ手が止まり、視線が皿の上に落ちる。「ん……? えっとぉ……今の家、居づらくて……逃げてきた。夜は、食べてない……」「そっか~」 ユウヤは、それ以上詮索することなく、静かに頷いた。少女の言葉に、どこか胸が締めつけられる。「……家に戻れとか、言わないの?」 少女がぽつりと尋ねた。ユウヤの反応が意外だったのか、少し訝しげな目を向けてくる。「居づらいなら、仕方ないだろ~? 無理して戻っても、ツラいだけだろ?」 いきなり家族を失って、知らない家に放り込まれたら、誰だって戸惑うだろう。ユウヤは、少女の気持ちを思いやった。「お前って、料理はできるのか?」 話題を変えるように尋ねると、少女は小さく首を振った。俯いた耳が、しょんぼりと垂れている。「うぅ……できない……」「掃除は?」「むぅ……やったことない……」「洗濯は?」「はぅぅ……できない……ごめんなさいぃ……」 少女は、できることが何もないことに気づき、申し訳なさそうに肩をすぼめた。その声は、今にも消えてしまいそうにか細い。 ユウヤは、そんな彼女の姿を見て、ふっと笑った。「じゃあ、これから覚えればいいじゃん。ゆっくりでいいからさ」 少女の目が、ぱちりと瞬いた。驚きと、ほんの少しの安堵が、その瞳に浮かんでいた。「は? あ、別にできなくてもいいんだけどさ。なんで謝るんだ?」 ユウヤは、少女の反応に首をかしげた。責めるつもりなんてまったくなかった。ただ、純粋な疑問だった。
熱いものは熱いまま、冷たいものは冷たいまま。 肉や野菜も傷まず新鮮なまま保てる――まさに万能の保管庫だ。「ついでに、ちゃんと冷やす機能も欲しいよな……」 すぐ隣に、同じような木箱をもう一つ用意。 魔石に〈フロスト〉の魔法を付与して、“冷蔵庫”としての機能を持たせた。 これで保存環境は格段に向上した。 暑い日の冷たい飲み物から、作り置きのスープまで―― どれも快適に保管できる。「んふふ……快適生活ができるな。アリア、驚くだろうな……?」 アリアの驚いた顔を想像すると、自然と笑みがこぼれる。 ふたりの暮らしが、またひとつ豊かになっていく。「……でも、だいぶやり過ぎた感があるな。まっいっか、アリアと暮らすだけの家だしな。他の奴は、ここには入ってこれないんだし……」 前世での暮らしにはまだ遠いかもしれない。 けれど――この異世界で、ここまで快適な生活環境を整えられたことは、 確かな誇りでもあった。 ♢ミーシャとの共同生活 アリアが作ってくれた料理を、異空間収納から取り出し、盛りつけていたときだった。 ――外で、「ガタッ」と何かが揺れる音がした。 不審に思って扉を開けると、そこには銀髪のネコ耳を持つ少女がいた。 玄関近くの壁にもたれかかり、座ったままウトウトしていたらしい。 こちらに気づくと、少女は一瞬気まずそうな表情を浮かべ、それをすぐにムスッとした顔に切り替えた。「そんなところにいないで、家に入るか?」 ユウヤが優しく声をかけると、少女はプイッとそっぽを向いた。「ふんっ」 でも完全に拒絶しているわけじゃない。 時おりチラッチラッと俺の様子をうかがっているし、昼間のように逃げる素振りもない。 ……ってことは、誘ってほしいってことか? ユウヤは、その不器用な態度からそう察した。「はぁ…&
ユウヤは、アリアの頭を優しく撫でた。「う、うん……。約束ね!」 アリアは、満面の笑顔で頷いた。その笑顔は、寂しさを吹き飛ばすように明るい。 転移でアリアの家の前まで送り、アリアが家に入ったのを確認してから転移で自分の新しい家へと帰宅した。帰宅すると、改めて自分の家だと実感してきた。 大きい家に一人いるとドキドキ、ワクワクしてくる……これって、俺の家なんだよな、スゲェ。何をしてても怒られないし、邪魔もされないぞ……最高じゃん。♢新たな魔道具の創造 ちょっとした趣味で、最近は魔石を使った魔道具づくりにハマっている。 ……とはいえ、家ではなかなか自由にできなかった。 スキルのことが親にバレたら面倒なことになりそうで、いつも気を遣いながらこっそり作業していたからだ。 でも今は、もうそんな必要もない。 この拠点なら――誰に遠慮することもなく、堂々と趣味を楽しめる。 そう思うと、なんだか心がふわっと弾んでくる。 さっそく、拠点のキッチンにあるカマドを改造することにした。 まずは――カマドの内部を丁寧に洗浄。 それから、内側に魔石を一つはめ込み、《ファイア》の魔法を付与する。 これで、カマド自体をオーブンとして使えるようになった。 次に、カマドの上部にさらに魔石をセット。 今度は、前世の記憶にある“コンロ”をイメージしながら、魔石に《ファイア》を再度付与。 火力をレバーで調整できるよう細工を施す。 ――これで、薪を拾う手間も、割る手間も、火を点ける手間もまるごと解消された。 薪の保管スペースすら不要になったのは、大きな進歩だ。 あとは……そう、水まわりだよな。 薪の次に手間なのは、やっぱり水の確保と管理だ。 どうするか考えながら、部屋の中をぶらぶらと歩いていると、ふと良い案が思い浮かんだ。 外に出て、まずはブロック製の大型タンクを設置。 その中に魔石を埋め込み、《ウォーター》と《防汚》の魔法を付
♢新居の夜 実際、上空から確認した限りでは、あの森はかなり広大だった。魔物の討伐も――まあ、無理に殲滅しなくてもいいか。殲滅自体が不可能ってわけじゃないけれど、依頼主が「それは無理だ」と言っているなら、そういうことなんだろう。 ……なら、被害が出ない範囲で、定期的にのんびりと討伐していく方が現実的だな。 その後、俺たちは獣人の長老といくつかの条件を取り決めた。 村および森への出入りは自由 獣人の村の存在は他言しないこと 他の人間を連れてこないこと 討伐は最低でも月に一度は行うこと 滞在中は村から食料の提供があること 互いにこの約束を交わすと、長老は静かに頭を下げ、深々とお辞儀をしてからその場を去っていった。「なあ〜アリア……あれ?」 ユウヤがアリアがいた方を見ると、すでに姿が消えていて家のドアが開いていた。(この家が、相当気に入ってるな……。)ユウヤは苦笑しながら、自分も部屋を見てみることにした。 家具まで揃っていることに少し違和感がある。(何かあった家なのだろうか?普通は引っ越すなら家具も持っていくはずだ。) まあ……引っ越しの記憶は前世の時のものだから、この世界での常識じゃないのかもしれない。ただ運ぶのが大変で、家具を置いて行くのが普通だとしたら納得もできる。引っ越し先に家具があるなら持っていく必要もないってことなのかも。「へぇ〜ソファーにキッチンに箪笥にベッドまであるのか」 ユウヤは、その設備の充実ぶりに驚きながら部屋を見回した。「掃除してたけどキレイだったよ」 アリアが満足そうに胸を張って答えた。その表情は、まるで自分の手柄のように誇らしげだ。「そうだ。俺は、ここに泊まっていくわ。夜に魔獣が活発になるし、ちょっと様子見もかねてなぁ〜」 ユウヤは、魔獣討伐という名目で、今夜はこの家に泊まることを決めた。
ユウヤは、子供たちと少しだけ遊び、遊びが終わると子供たちは満足して帰っていった。家に入ると、アリアが楽しそうに掃除をしていた。鼻歌を歌うような軽やかな動きで、隅々まで綺麗にしている。「あ、悪い……。外で子供たちと遊んでた」 ユウヤが申し訳なさそうに言うと、アリアは笑顔で首を振った。その瞳は、新しい家への愛着でいっぱいだ。「ううん。大丈夫だよ。村の人と仲良くしなきゃだし。この家ね、色々と家具も揃ってるんだよ〜♪」 アリアは、新しい拠点にすっかり心を奪われているようだった。♢新居の夜と隠れた才能「ん?いやぁ……住めって言ってるのか?それで魔獣の討伐を依頼というかお願いする気なのか?良いんだけどさ……」 ユウヤは、長老のあまりにも気前の良い申し出に、思わず目を丸くした。 半信半疑といった表情でアリアの方へ視線を向けると――彼女はすでに目を輝かせ、嬉しそうにしていた。 俺と目が合うや否や、満面の笑みで何度も力強く頷いている。 ……なにをそんなに嬉しそうにしてるんだ?「どうしたの? 嬉しそうだけど??」 ユウヤが問いかけると、アリアは飛び跳ねそうな勢いで答えた。 その声には、隠しきれない喜びがはじけていた。「わたしたちの拠点だよぉっ♪ きょ・て・んっ♪」(あっ……それ、なんかカッコいい……!) その瞬間、ユウヤは思わず納得した。 冒険者には、いくつかのタイプがいる。 たとえば――旅をしながらダンジョンを巡り、宝を探す冒険者たちは、定住せずに宿や野営で夜を明かす。 一方で、村や町の討伐依頼を請け負ったり、護衛・警備の仕事を請け負ったりするタイプの冒険者は、 生活の拠点として家や本部を構えることが多い。 それでアリアは、あんなに目を輝かせていたのか。 “ふたりの拠点”――その響きが、特別に感じられたんだろうな。 納得だよ、うん。「それは
獣人だからと見下していたかもしれない……。依頼を受けた村から貰えた家は、雨風を防げるだけの休める場所ではなくて、ブロック造りの、十分に暮らしていける立派な家だった。しかも村から少し離れた場所で、広い庭付きだった。「村の中心部から離れていますが、空いていて立派な家がこの家しか無いのです。村の中心部にも空き家はありますが……小さな家で少し、いや大分傷んでいまして」 長老は、恐縮したように説明した。「ここが良いです。あの、庭に倉庫を立てても問題ないですか?」 ユウヤは、その家の良さに満足し、すぐに庭の活用方法を考えた。その瞳は、すでに未来の計画で輝いている。「ええ。この土地は、お譲りした土地なのでご自由にお使いください」(お。土地も貰えるんだ? 倉庫と薬草を育てられるかな?森に近い場所に植えてみようかな。その他は野菜かな?) ユウヤは、新しい生活への期待に胸を膨らませた。「ありがとうございます」「ありがと〜♪」 アリアも満面の笑みで、感謝を伝えた。その声は弾んでいて、本当に嬉しいのが伝わってくる。 こんなに、すんなりと村に入れちゃって良いのか? 結界で寄せ付けないようにしていた人間なのに? ユウヤは、少しばかり疑問を感じ長老に尋ねた。「あの〜俺たちは人間なんですけど? すんなりと信じちゃって良いんですか?」 長老は、ユウヤの疑問に穏やかに答えた。その表情は、一切の疑念を抱いていないようだった。「儂には、害意のある者。ない者。が分かるスキルがありますので問題ないです。同じスキルを持っている者も同じ意見でした」(やっぱりそうか……じゃなきゃ、得体の知れない危険な者がいるかもしれない場所に、子供を連れて来るわけがないか。) ユウヤは納得し、次の話題に移った。「討伐は、明日からでも良いですか?」「ええ。問題ないです。この森は広大で殲滅は不可能なので、定期的に討伐を行ってくだされば助かります」